2025.02.06
奥歯のインプラント手術の難しさとは?4つの課題と成功のポイントを紹介
奥歯を失うと、食事の楽しみが減り、胃腸への負担も増えてしまいます。
治療法の選択肢には、インプラント、ブリッジ、義歯がありますが、特にインプラント治療は自然な噛み合わせを取り戻せる可能性が高い治療法として注目されています。
歯科医療におけるインプラント施術は高い専門性が求められ、特に臼歯部の処置において複数の問題に直面します。
しかし、適切な治療により、食事の満足度向上や顎の健康維持など、多くのメリットが期待できます。
この記事では、奥歯のインプラント治療について、メリットやデメリット、治療が難しくなる要因などを詳しく解説します。
歯科医療における「奥歯」とは?

「奥歯」という言葉の具体的な範囲をご存知でしょうか?歯科の専門用語では、奥歯のことを「臼歯」と表現します。
臼歯は「小臼歯」と「大臼歯」の2種類に分類されており、それぞれに番号がつけられています。実際の奥歯の範囲は、第一小臼歯から第二大臼歯までの4本です。歯の番号でいうと4番から7番までの歯を指します。
一般的な奥歯の範囲は4本となりますが、個人によって第三大臼歯(親知らず)が生えることもあります。
親知らずは8番目の歯にあたりますが、この歯は生え方に問題がある場合に抜歯することもあるため、必要不可欠な歯ではありません。
親知らずの部分にインプラント治療を行うことは基本的にありませんので、本ページでは4番(第一小臼歯)から7番(第二大臼歯)までを奥歯と定義し、インプラント治療について解説いたします。
奥歯の重要な役割と特徴
奥歯の最も大切な機能は、食べ物を完全にすりつぶすことにあります。
「臼歯」という漢字に含まれる「臼」は、食材を粉末状にする道具を表しており、奥歯は強力な力で食材を細かくして消化を助ける働きをします。奥歯を失うと食事が難しくなり、ストレスを感じたり、胃腸への負担が大きくなったりする可能性があります。
加えて、奥歯は口腔内の調和を保つ役目も担っています。噛み合わせの高さは奥歯で決定されるため、奥歯を失ってしまうと、咬合バランスが崩れ、口腔内全体の機能的な調和が損なわれます。
さらに奥歯が減少すると、噛み合わせの位置が低下し、顔の形状にも影響を及ぼすことがあります。
このように重要な役目を持つ奥歯ですが、実は損傷を受けやすい部位でもあります。
強い咬合圧がかかることや、歯ブラシが届きにくい位置にあることから、欠けたり虫歯になりやすく、特に6歳臼歯と呼ばれる6番の歯は、永久歯の中で最も早期に失われる可能性が高いとされています。
奥歯における
インプラント治療の難易度

奥歯へのインプラント治療は困難を伴うという情報を耳にした方は少なくないでしょう。実際に、歯科医師が治療不可能と判断するケースも存在します。
インプラント治療の難易度は患者さんの状態によって大きく異なります。比較的容易に治療できる場合もありますが、治療の実施が著しく困難と判断せざるを得ない症例もございます。
なお、前歯のインプラントも決して簡単な治療ではありません。前歯と奥歯では、それぞれの部位に応じた独自の課題があります。
奥歯のインプラント治療が
困難となる要因
奥歯のインプラント治療が難しいとされる主な理由を5つご説明いたします。
- 咬合圧による繊細な調整の必要性奥歯は非常に強い力がかかるため、噛み合わせの調整が極めて重要となります。
- 治療スペースの制約奥歯部分は開口量が限られており、治療器具の使用が難しくなります。
- 上顎洞との距離への配慮上の奥歯部分は上顎洞という鼻の空洞が近接しているため、慎重な治療計画が必要です。
- 7番付近の角化歯肉の少なさ第二大臼歯周辺は、治療に適した歯肉の量が限られています。
- 神経への配慮5番より後方では、下歯槽神経との位置関係を慎重に検討する必要があります。
咬合圧による噛み合わせ調整の重要性
第二大臼歯には60kgから70kgもの強い咬合圧がかかります。このため、噛み合わせの調整が不適切な場合、顎関節の痛みや開口障害などの症状が発生する可能性があります。
さらに、インプラントの人工歯冠や人工歯根に損傷が生じるリスクも考えられます。
治療スペースの制限について
口腔内は奥に行くほど口を広げる幅が狭くなっていきます。前歯部分と比較すると、奥歯部分は明らかにスペースが狭くなっています。
特に第二大臼歯付近では、手術器具を使用するための十分なスペースを確保できない場合があります。患者様の開口量によっては、物理的に治療が実施できないケースも存在します。
さらに、サージカルガイドを用いる場合は通常よりも長い器具が必要となるため、奥歯部分での治療がより困難になる可能性があります。
上顎奥歯部のインプラント治療における解剖学的考慮
上顎の奥歯部分では、上顎洞という空洞との距離が重要な課題となります。骨の高さが不十分な場合、インプラントが上顎洞に到達してしまい、適切な固定が得られない可能性があります。
このような状況では、上顎洞底挙上術という特殊な手術が必要となります。この手術では、人工骨材料を用いて骨量を増やし、インプラント埋入に必要な高さを確保します。
しかし、この手術には高度な技術が求められるため、実施できる歯科医師が限定されます。その結果、インプラント治療を断念せざるを得ないケースも生じます。
第二大臼歯周辺の歯肉の特徴と
治療への影響
インプラント治療には2mm以上の角化歯肉(固い歯肉)が必要不可欠です。角化歯肉が不足すると、インプラント周囲炎のリスクが増加します。
第二大臼歯周囲は角化粘膜の不足が認められやすく、歯肉移植術の適応となる場合があります。
しかし、第二大臼歯は口腔内で最も開口量が制限される部位であり、歯肉移植手術の実施も困難を伴います。
下顎奥歯部における神経への配慮
第一小臼歯遠心部から第二大臼歯部における治療計画では、下顎管の走行位置に対する慎重な配慮が不可欠となります。下歯槽神経は下顎を走行しており、5番から7番までの歯根付近を通過しています。
インプラント埋入時に下歯槽神経を損傷すると、下唇やオトガイ部分の感覚が鈍くなる可能性があります。このような合併症を防ぐため、詳細なレントゲンやCT検査で神経の位置を正確に特定する必要があります。
第二小臼歯から第二大臼歯までのインプラント治療では、神経との距離を慎重に確保しながら埋入位置を決定する必要があるため、治療の難易度は高くなります。
奥歯のインプラント治療における
利点と課題

インプラント治療の難易度が高い奥歯ですが、この治療方法を選択する価値があるのかという疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
歯の欠損に対する治療法には、インプラント以外にもブリッジや義歯という選択肢があります。インプラントは、顎骨に人工歯根を直接埋入し、その上に人工の歯を装着する方法です。一方、ブリッジや義歯には人工歯根がないという大きな違いがあります。
人工歯根の有無によって治療効果にどのような違いが生じるのか、疑問に感じる方も多いことでしょう。また、難しい手術を避けてブリッジや義歯を選択するという考えもあるかもしれません。
以降では、奥歯をインプラントで治療する際のメリットとデメリットについて詳しくご説明いたします。
インプラント治療による
奥歯の機能回復のメリット
奥歯のインプラント治療には、以下のような利点があります。
- 周囲の歯を保護できる人工歯根で独立して支えられるため、隣接する歯への負担が生じません。
- 食事の満足度が高い自然な歯と同等の咬合力が得られます。
- 消化機能の向上食べ物を十分に噛み砕けるため、胃腸への負荷が軽減されます。
- 健康的な食生活様々な食材を摂取できるため、栄養バランスが改善します。
- 顎骨の健康維持骨密度の低下を防ぐことができます。
- 口腔内の調和適切な噛み合わせにより、歯列全体の安定性が保たれます。
- 自然な見た目天然歯に近い外観が得られます。
- 明瞭な発音話す際の違和感がありません。
- 快適な装着感治療後の痛みが少なく、違和感も軽度です。
食事の質の向上
インプラント治療により、天然歯に近い食事体験が可能になります。義歯の咀嚼能力は天然歯の30%程度、ブリッジは60%程度とされています。
一方、インプラントは咀嚼能力が約80%、咬合力は天然歯と同等の100%に達します。
自然な噛み心地で食事を楽しみたい方には、奥歯のインプラント治療が適していると考えられます。
消化器系の健康維持
奥歯1本の喪失だけでも、咬合力は30%から40%も減少する可能性があります。
咬合力の低下により食物を十分に噛み砕けなくなると、消化器官に大きな負担がかかります。
インプラント治療で咬合機能を回復することにより、食物を適切に粉砕できるようになります。その結果、胃腸の働きが改善され、消化器系の負担が軽減されます。
バランスの取れた食生活の実現
歯の喪失による咬合力の低下は、食事の選択肢を制限してしまいます。固い野菜を避けることで食物繊維が不足し、便秘の原因となることがあります。
また、肉類の摂取が困難になることで、タンパク質やビタミンが不足する可能性もあります。
インプラントによって奥歯の機能を回復することで、多様な食材を摂取できるようになり、栄養バランスの向上が期待できます。
顎骨の健康維持
人間の体には廃用性萎縮という現象があり、使用していない組織は徐々に衰えていきます。骨折後の筋力低下や宇宙飛行士の帰還後の立位困難も、この現象の一例です。
歯を失った部分の顎骨も、咬合圧がかからなくなることで萎縮が進行します。義歯やブリッジには人工歯根がないため、骨吸収の予防効果は限定的です。一方、インプラントは人工歯根を通じて顎骨に適切な刺激を与えることで、骨密度の維持に貢献します。
歯列全体のバランス改善
インプラント治療では、精密な噛み合わせの調整が可能で、歯列全体の調和を実現できます。未治療の欠損や不適切な補綴物は、特定の歯に過度な負担をかけ、歯の破折などのトラブルを引き起こす可能性があります。
インプラントの上部構造に問題が生じた場合でも、人工歯根を交換せずに調整や修理が可能です。
また、定期的なメンテナンスにより長期的な噛み合わせの安定性を維持できます。奥歯は歯列全体の噛み合わせに大きく影響するため、インプラント治療の効果は特に顕著です。
自然な見た目の実現
従来の義歯やブリッジは金属部分が目立つため、人前での会話に抵抗を感じる方もいます。一方、インプラントは人工歯根が歯肉内に埋入されているため、外観上の違和感がほとんどありません。
特に第一小臼歯や第二小臼歯は人目につきやすい位置にあるため、インプラントによる自然な見た目の回復は大きな利点となります。
明瞭な発音の維持
歯の欠損により空気が漏れ、発音に支障をきたすことがあります。前歯ほどではありませんが、奥歯の欠損も会話の明瞭さに影響を与える可能性があります。
義歯の場合、装置のずれや口蓋部への影響により発音の問題が生じることがあります。特に上顎の大きな義歯は、発音に重要な口蓋部を覆うため、会話に支障をきたしやすいです。
インプラントは位置が固定されており、口蓋を覆う装置も不要なため、自然な発音を維持できます。
装着時の快適性
インプラントは違和感や痛みが少なく、快適な装着感が得られます。義歯やブリッジでは、食物の挟まりや装置による圧迫感、粘膜との摩擦で不快感が生じることがあります。
特に奥歯は強い咬合圧がかかるため、これらの問題がより顕著になりやすい部位です。
インプラントでは人工歯根と上部構造が一体となっており、歯肉との隙間もないため、食物が詰まることによる不快感を感じることはありません。
インプラント治療における課題点

奥歯のインプラント治療には以下のような課題があります。
- 骨量の確保が必要十分な骨量がない場合は骨造成手術が必要となります。
- 高額な治療費保険適用外の治療となるため、費用負担が大きくなります。
- 治療期間の長さ完了までに長期間を要する場合があります。
骨の状態による制約
インプラント治療の成功には、適切な骨量と骨質が不可欠です。特に奥歯は強い咬合圧がかかるため、人工歯根と骨の結合(オッセオインテグレーション)が極めて重要となります。
骨量が不足している場合は骨造成や骨移植が必要ですが、これらの手術は高度な技術を要するため、実施可能な医療機関が限られています。
一方、義歯やブリッジは骨の状態に関わらず施術が可能であり、この点はインプラント治療の制約となっています。
治療費用の課題
インプラント治療は主に自費診療となるため、高額な治療費が必要になります。治療部位や骨・歯肉の状態によって費用は変動しますが、1本あたり30万円から50万円以上の費用が一般的です。
義歯やブリッジは保険診療での治療も可能なため、経済的な負担を抑えることができます。
治療期間に関する考慮点
インプラント治療では、人工歯根と顎骨の結合に一定期間が必要となります。理想的な条件が揃った場合でも、約3ヶ月の治療期間が必要です。骨造成などの追加治療が必要な場合は、1年程度の期間を要することもあります。
一方、ブリッジや義歯は通常1ヶ月程度で治療が完了します。このような治療期間の長さは、インプラント治療の課題の一つとなっています。
まとめ:奥歯の機能回復におけるインプラント治療の重要性

奥歯のインプラント治療は、複数の要因により高度な技術を要する治療となります。
第一小臼歯から第二大臼歯まで、それぞれの歯で治療の難易度は異なり、奥に行くほど複雑になります。
上顎では上顎洞との関係、下顎では下歯槽神経への配慮など、様々な解剖学的な課題を克服する必要があります。
これらの課題に対応できる歯科医院は限られているため、インプラント治療を断念される方も少なくありません。
しかし、咀嚼機能や歯列のバランスを保つ上で、奥歯のインプラント治療には数多くの利点があります。
現在奥歯の治療でお悩みの方は、インプラント治療に精通した歯科医院での相談をお勧めします。
一度治療を断られた経験がある方も、複数の医院に相談することで適切な治療機会が見つかる可能性があります。
患者様の将来が笑顔になれる治療をお約束致します。
まずは些細なお悩みでも大丈夫ですので、
お気軽にご相談下さい。
記事の筆者情報
経歴
平成18年3月 |
国立東北大学歯学部 卒業 |
平成18年4月 |
滋賀医科大学医学部 歯科口腔外科 入局 滋賀県立成人病センター 麻酔科 研修 |
平成20年4月 |
京都 医療法人にて副院長として勤務 |
平成23年4月 |
大阪 インプラントセンターにて診療部長として勤務 |
平成26年4月 |
京都・滋賀 広域医療法人にて院長歴任 |
平成30年3月 |
やまもと歯科 大久保院 開院 |
資格・参加研修会
- 歯科医師臨床研修指導歯科医師(厚生労働省)
- 日本口腔インプラント学会 会員
- ストローマンインプラントマスターコース
- ノーベルバイオケアインプラントコース
- その他、多数参加